タブロイド誌「S」

vol.3
ニューサマーオレンジ
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 伊豆半島には100年前からこの土地に根づく柑橘があります。
 ニューサマーオレンジ。「ニュー」の名から、新しい品種と思われがちですが、歴史をたどると1820年に宮崎県で発見された日本原産の「日向夏」がもとになっています。伊豆で栽培が始まったのは、大正時代。なんと、100年にわたってこの地に繁茂し、花を咲かせ、果実を実らせてきた歴史ある柑橘なのです。
 石舟庵では、ニューサマーオレンジを「百年柑橘」と名づけ、特別な素材として大切にしてきました。外見も味わいも、ほかの柑橘類にはない独特のさわやかさが魅力。グレープフルーツのような淡い黄色に、つるりなめらかな表皮は、初夏に映える山の宝石のようです。とろみのある果肉はジューシーで、控え目な甘さのなかに上品な酸味が感じられて「ニューサマー」のイメージにぴったり。現在では、伊豆を代表する特産品として、お菓子はもとより飲料や料理にも活用されていますが、石舟庵が最初にお菓子作りに取り入れた30年前は、素材原料としてはあまり注目されていませんでした。
 ニューサマーオレンジのおいしさをもっと多くの方に知っていただきたい。そんな思いから誕生したのが、石舟庵を代表する銘菓のひとつ、「みかんの花咲く丘」です。ニューサマーオレンジの自家製ピューレをたっぷりと加えて焼き上げたベイクドチーズタルトで、2000年の発売当初から現在に至るまで不動の人気を誇っています。
 ニューサマーオレンジがこれだけ素晴らしい果物として育まれてきたのは、伊豆が柑橘栽培に適した環境であることはもちろん、もっとおいしくなれ、どこにも負けないみかんに育てと、地域ぐるみで切磋琢磨してきた人々の情熱と努力があったからにほかなりません。
 風光明媚な伊豆の景色を彩ってきた百年柑橘。そのふるさとである、東伊豆町と河津町を訪ねました。