タブロイド誌「S」

 あんこは、小豆に、砂糖と水、少量の塩を加えてつくる、とてもシンプルなもの。それゆえに、見た目は同じあんこでも、100の店があったら100通りの味になるといわれるほど、それぞれの店の個性、こだわりが表れます。あんこは、シンプルにして、たいへん奥深いものなのです。

 石舟庵のお菓子づくりは、あんこづくりからはじまります。追求するのは、みずみずしくジューシーで香り高いあんこ。口にしたとき、砂糖の旨みをたくわえた小豆の風味が広がり、しっとりと心地よく口どけていく。後味は、どこまでもすがすがしく。味、食感、そして香り。この3要素のどれが欠けても理想とするあんこは完成しません。

 和菓子の命ともいわれるあんこ。最高の味を求め、材料と製法にこだわっています。小豆は水から茹でるのが一般的であるのに対し、石舟庵ではお湯から一気に煮ていきます。短時間で煮上げることによって、小豆の風味が煮汁に流れ出すのを最小限に留め、風味がしっかりと感じられるあんこができるのです。

 この独自の製法は、いまから20年前、ある生産者との出合いによって実現しました。北海道十勝で最高品質の小豆を栽培する生産者グループ「十勝壱カラット」。一般に流通している小豆は、さまざまな生産者のものが混粒しているため、品質のばらつきが避けられませんが、「十勝壱カラット」の小豆は、生産者単位で個別選別された単一品種のもの。十分に完熟した豆のみ揃っているため、熱湯で一気に炊いても、ふっくら均一に煮上げることができます。
 石舟庵のあんこに欠かせない存在、それが「十勝壱カラット」の小豆です。